バルセロナ移住したよ日記

日々、バルセロナでの日常と珍道中を書いていきます

新しい星へ行くことにした

 

新しい星

新しい星へ行く
新しい星へ行く準備をしよう
それは地球以外の星だ
それは変わってしまった新しい地球かもしれない
さあ、みんな新しい星へ行く支度をしよう
それはまだ誰も知らない星さ
君が見上げた夜空に輝いてる星かもしれない
そこには水や食料はあるのだろうか
そんなことは誰も知らない
行った人だけがわかることさ

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私は新しい星へ行くことを決めた。
新しい星の住人として生きるのだ。

私は新しい星へ行く人たちをネットを通じて募集した。 
TwitterFacebook掲示板。
特に家族や親しい友人たちに声をかけたりはしなかった。
ただ、私の息子と妻には新しい星に来てくれるよう、なんとか説得した。 
妻を説得するのは大変だった。
最後まで妻は両親や友人たちと離れ離れになりたくないと泣いて反対した。
結局、私の説得に折れ地球を離れる決心をしてくれた。

私は、もし彼女が行かない決断をしても、
なんとかして息子だけでも連れて行くつもりだったから内心ホッとした。
もちろん、そんなことはしたくなかった。
だから、彼女が最終的に賛成してくれたことは本当に嬉しかった。 
ネットの掲示板に書き込みをした2日後。最初の投稿者から連絡があった。 
その人は26歳、会社員の男性だった。

彼は私にこう連絡をしてきた。

「初めまして。 田中裕太と申します。東京で会社員をしています。
私もあなた方と一緒に新しい星へ行ってみたいのです。
ちなみに、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
また、どのような手段で新しい星へ向かわれるのですか? 
民間のロケットか何かお持ちなのでしょうか?
一度にいくつも質問をしてしまいすいません。 ただ、私も残された時間、地球を離れる準備をする必要がありますので、事前に情報をご教示いただけたら助かります。どうぞご容赦ださい。」

彼からのメールを読み終えた私は少し遠くを見つめた。
そして、こう返信した。

「初めましてご連絡ありがとうございます。 こうしてあなたのように賛同していただける方がいることを心から嬉しく思います。 ただ、現段階では何も決まっていないのが実状です。 私は行くことだけ決めただけなのです。
新しい星へ行く手段や、いつ出発するのかなど具体的な日程はまだ決まっていません。もし、私と私の家族だけになっても、私はこの地球を離れるつもりです。特に費用はかかりません。日程についてもみんなで相談して決めましょう。」

メールを送信した私は、ようやく新しい星へ行く方法を考え始めた。

まず、私はどの星へ行くかを決めることにした。 
Googleで天体について詳しく解説されたサイトに行き着いた。
私はそのサイトの中でもあまり知られていない星を探すことにした。
はじめは火星や水星など、一般的に有名な星も考えたが、
もうすでに大勢の地球人が移り住んでいる可能性もある。
だから、もっとのんびりとした田舎のような星があったらいいなと空想しながら探していた。数多ある星の中で、私の目に止まった星の中にこんな惑星があった。

「ユリウス星」

その惑星の名前と写真を見た時、なぜか私はとても懐かしく感じたのだ。
次に私はその星へ行く手段を考えた。どうやったら行けるのだろうか。
それから数日、私は考えに考えた。宇宙ロケット以外の手段を。

そして、その惑星までテレポーテーションで行けないだろうかと推測した。
我ながら突拍子もない考えなのはわかっていた。
そして、調べるうちにテレポーテーションについて研究している人たちが、この地球上には3人いることが分かった。
私はその3人へコンタクトをとった。

「初めまして、斉藤と申します。 私はあなたが研究しているテレポーテーションについて詳しく知りたいのです。
 一度、あなたに直接会ってあなたが研究しているテレポーテーションについてお聞かせいただけないでしょうか。」

そのような内容のメールだった。

1人目は、アメリカのコロラド州で大学教授を勤める75歳の男性。
2人目は、日本の熊本で地理学を研究している52歳の男性。
3人目は、ポルトガル量子力学について研究している48歳の女性だった。

私は2週間ほどかけ各国を周り、彼ら3人に会った。

私は彼らからテレポーテーションについての話を聞いた。
彼らは私がどんな質問をしてもすべてに答えてくれた。
毎回、その機知に富んだ会話に私は関心し、熱心に聞いた。

その中でも、ポルトガルに住む48歳の女性研究者は、
自らテレポーテーションをした経験を持つ人物だった。
彼女の名前はシモーネ。量子テレポーテーションの第一人者だった。

シモーネは、私になぜ テレポーテーションについて知りたいのか。
また、テレポーテーションを使って何をしたいのか、いろいろと質問をしてきた。
私はシモーネに地球を離れてユリウス星へ移るためだと正直に答えた。
その後も、彼女からの質問にいくつか答えたところで、彼女は私を別の場所にある彼女の研究室へ連れて行くと言った。
シモーネが秘密にしている研究室に私を招いてくれたのだ。
ただし、シモーネからはその研究室のことや、そこで見る情報は他人へは絶対に漏らしてはいけないと
事前に契約書に署名をさせられた。
彼女が秘密にしている研究室にはある装置があるようだった。

翌日、彼女はその研究室へ私を連れて行った。
そして私にその装置を私に見せてくれた。
それは、彼女が4年前に開発した量子テレポーテーションの装置だった。
シモーネはその装置を見せる前に、 再度この事は公言しないようにと私に忠告した。それから、ゆっくりとその装置について説明をしてくれた。
その装置は、 物体を遠隔へ一瞬にして送信できる装置だった。
私が研究室を離れる直前まで、装置については絶対に公言しないように何度も彼女から念を押された。

また、私がユリウス星へ行くためにその装置を使用する条件として、
私や一緒に行く人たちの身に何が起こっても、彼女は一切責任を負わないことに同意することも加えて約束させられた。
そして、私は日本へ帰国した。
最終的に、ネットの公募で集まった男女5人と私を含めた家族3人の計8人でユリウス星へ向かうことが決まった。
私たち8人はメッセージのやりとりをしたその後、2週間後にポルトガルへ向かった。

シモーネの自宅に到着し、私たちは彼女に温かく迎えられそのまま研究室へ向かった。
研究室では既にテレポーテーション装置の準備が完了しており、装置の前に私たち全員は立つように言われた。
そして、シモーネは私たちにこう言った。

「あなたたちにこれから素晴らしい幸運と祝福が訪れますように。
 ユリウス星が良い星であることを心から祈っています。良い旅を! 」

そう言うと、彼女は私たちへ装置から放たれる青い光を向けた。

次の瞬間、私たちはユリウス星に到着していた。
そのあまりの出来事に私たちは驚いた。
全員その場所が本当にユリウス星なのかまだ信じられなかった。

ユリウス星は、地球に似ているようで似ていない惑星だった。 
この星は土地が全てエナメルでコーティングされているような光沢を帯びていた。 しかし、木々が生い茂る森があり、山や川、海がある自然に溢れた豊かな星だった。
何より私たちが驚いたことは、ユリウス星に住む住人たちは、全員が子供たちの背丈しかなかった、見た目も地球の子供そのものだった。
私はこの星には大人が住んでいないのかと思った。 
私たちが到着した場所は、 ユリウス星の中心部に位置する街だった。

私たちが到着してすぐに、その背丈が子供くらいのユリウス星人たちが近寄ってきた。 彼らは、アラブ人の男性が着るカンドゥーラのような楽な服を着用していた。皆、穏やかな表情で微笑みながらこちらを見ている。
また、私たちは街の中心にいるにも関わらず、街の喧騒音が全くしなかった。まるで無音の世界にいるような錯覚を覚えた。

私たちを見ているユリウス星の住人たちの中から、一人の少年が近づいてきた。彼は私たちに話しかけてきた。しかし、彼の口は全く動いていない。
それにも関わらず、しっかりと彼の声が私たちには聞き取れた。
どうやら彼らはテレパシーで会話をするようだ。
その少年の名前はメローといった。

彼は言った。

「ようこそ私たちの星へ。ずっとあなた方が地球からこのユリウス星へ来るのを待っていました。
私たちはあなた方がこの星にこうして来ることを心から祝福しています。
そして、それはあなた方が来る前に私たちに伝えられていました。
あなた方が来ることは既に決まっていたのです。」

私は意外にも彼の話に驚かなかった。
そして嬉しくなり、彼らにそのことを伝えようとしたが話す前に、彼らは私の考えをすでに悟ったようだった。 
彼らから私達を祝福するエネルギーが届くのを感じた。だから、私はあえて口にすることをやめた。 私の息子や妻、そして他の5人もその祝福を感じているようだった。

私はその少年の姿をしたユリウス星人、メローに感謝の気持ちを伝えた後で、 地球がこの星からどれくらい離れているのかどの方向にあるのか尋ねた。すると、メローはある方向を指差して、 丁寧に教えてくれた。

「あなたたちの星、地球はここから南西に300光年離れた場所にあります。
そして、私たちユリウス星人はいつでも地球へ行くことができます。 もちろん、あなたたちも好きな時に地球へ戻ることができるのです。 
だから、あなたたちは悲しむ必要はありません。」

私はそれを聞いて驚くと同時に安心した。 
「地球にいつでも戻れるだって!? 本当に?でも折角、決心して我々はここまで来たのだ。当面はこの星で暮らしていこう、と。」

彼は続けた。

「私たちユリウス星人が地球へ行くことはとても稀です。それは、地球に行くためには、私たちのエネルギーのバージョンを変える必要があるからです。 私達は、本当に必要だと判断する時が来るまで、自分たちのエネルギーのバージョンを変えることはしません。」

彼らは微笑みながら私たちを見つめるだけだった。
その星に到着して、私たちはそれぞれすぐに住む家を与えてもらった。

私たち家族が住む場所は丘の上にあった。 
すぐ家の近くに大きな教会が見えた。丘の上にあるためその街の景色が一望できた。 空気は澄み渡り、心地良い風が吹いていた。
街を見下ろしながら、私は本当にここがユリウス星なのかまだ信じることができなかったが、
この新たな星でどうやってこれから暮らしていけばいいのか、なんていう不安は自然となかった。

街で出会ったユリウス星人たちは私たちにこう教えてくれた。

「市場に行けば色々な食材や食べ物が揃っています。そして、あなたたちが望む服や靴もすでに揃っている。だから、お腹が空いた時は市場へ行けばいいし、食材をもらって家で調理してもいい。
あなたたちが欲しいと願うものは市場でイメージすれば手に入ります。
驚いたことに彼らには働くという概念がなかった。 事実、この星の住人たちは誰も働いていなかった。
そして、誰もが自分の好きなことだけをして毎日を過ごしていた。
また、ユリウス星には独自の通貨が存在しなかった。

そのためか、この星にはお金を払って楽しむ娯楽もないと聞いた。 
楽しいことを思いついた誰かが、それに関わりたい人たちを集め遊ぶ、レクリエーションのような活動があると教えてもらった。食べることが好きな人達は、 料理サークルを通じて、 集まり互いに意見交換をする。
絵が好きな人達はそこに集まり絵を描いている。
映画が好きな人達は、自分たちで映画を作り、それをユリウス星の映画館で上映している。その時々に、皆が楽しいと思うことをして過ごしていた。

ある日、私はメローに尋ねた。
「私たち8人がこの星に来た最初の地球人ですか?」

彼は答えてくれた。
「いえ、もう随分と地球から引っ越してきた人たちはたくさんいますよ。
 そして、皆ここに住んでいます。あなたたちの星、地球では過去に何度となく大災害が起こりました。その度に、地球人の一部はあなたたちのように他の星々へ移って行ったのです。
だから、この星には過去、地球に住んでいた人たちが沢山いますし、中にはこの星の人と結婚した人たちもいます。」

私たち家族はこの星に移ってから、地球にいた時よりも心が穏やかになっていくのを感じていた。そして、この星の人たちのようにテレパシーで話すことに次第に慣れていった。
私たち家族は何か食べる時以外、口を開かなくなった。 
そもそも、お腹が減ることもないので、食べないでいようと思えば何日もいることができた。この街で食べるという行為は生きるためではなく、レクリエーションの一つなのかもしれない。

ユリウス星での生活が1ヶ月ほどした頃、 私は地球のことをふと考えた。
今、地球はどんな状況なのだろうか。 地球は平和なのだろうか。 
ウィルスの感染は解決したのか。 社会経済はどうなっているのかなど。

私は、もはや自分が地球人であったことも忘れかけていることに気付いた。 
ただ、そこに寂しさはなかった。 私は地球人がもっとこの素晴らしい惑星に来れたらいいのに、そう静かに思った。

私は地球に暮らしていたんだよな。 もう私は地球に戻らないのだろうか。
そんなことをぼーっと考えていたが、すぐに考えるだけ無意味なのだと思い、考えるのをやめた。

私の息子は、いつも近所の子供達と遊んでいる。妻もダンスや料理をしていつも楽しんでいるようだ。
私はというと、植物を育てる趣味ができ、毎日いろいろな野菜を植えてはその発育状況を眺めている。
というのも、ユリウス星では種を土に植えてから凄い早さで植物が成長するので、3日ほどで収穫ができる。 
だから、野菜をいつでも畑から新鮮なうちに取って食べることができた。
一方で、この星には動物がいなかった。私たち、ユリウス星人、植物だけだ。天気も晴天だけ。雨や曇りの日がないので、一見、地球に似た星なのだが毎日が晴れ。

私は地球に関してのニュースを見たい時、 
家でいつもテレビをつけ地球の様子を鑑ることができた。
ただ、テレビから一切音は流れているわけではない、映像を通じて地球の様子をエネルギーとして伝えてくれる。
私はそれを日々眺めてながら、やはりユリウス星のことを地球の人たちにもっと知ってほしいと願うようになった。 
そして、その思いは日に日に強くなっていった。
ある日、地球に住む一人の青年と私は交信ができるようになった。

この青年は、 宇宙への関心が高いカナダに住む青年だった。名前はサイモンといい年齢は18歳だった。
私はサイモンに時々交信を試みた。それは彼が見る夢の中が多かった。
私は夢を通じてサイモンに話しかけた。

そして、最初は彼の夢の中でユリウス星の風景をイメージとして送った。
彼は毎日同じような夢を見ることを不思議に思っているようで、とても困惑していた。 起きてすぐに忘れることもよくあった。

私がサイモンと交信するうち、次第に彼のほうも日常生活の中で私のイメージや会話をキャッチできるようになっていった。
そして、遂に私とサイモンは、テレパシーで会話ができるようにまでなった。サイモンはユリウス星にとても興味があるようだった。
ただ、彼は地球の生活に現状は満足しているようで、今すぐにユリウス星に行くことはないと言った。
私も彼にこちらへ来たくなったらいつでも来たらいい、そう伝えた。

私たちは良い友になった、私はとても嬉しかった。

サイモンは、私との会話を心の許せる友人や恋人に少しずつ話して聞かせるようになっていった。
はじめは皆この彼の体験に半信半疑だったが、 彼の話に興味を持つ友人たちの数は徐々に増えていった。
そして、友人から友人へ、さらにそのまた友人へという風に 私たちの噂は、SNSを通じて広がっていった。
この噂はSNSを通じて話題となり、テレビや一部の新聞でも取り上げられた。

そしてある日、 サイモンは私へこんなメッセージを伝えてきた。
「私もあなたの住んでいるユリウス星へ行ってみたいのです。 どうしたらあなた達の住む星へ行けますか?」

私は答えた。 
「あなたはいつでも私たちの星へ来ることができます。あなたの夢を通じて。ただ、もしあなたが肉体を通じた物理的な体験を望んでいるのなら、
ポルトガルに住んでいるテレポーテーションについて研究している女性を訪ねて行きなさい。その女性はきっと、あなた達に良いヒントを与えてくれるでしょう。」

サイモンは私に分かりました、とだけ言い、私たちは会話を終えた。
それから3ヶ月後、彼はポルトガルに住むシモーネを訪ねて行った。
そして、さらに2ヶ月後、遂に彼は私たちの住むユリウス星に彼の彼女と、彼女の両親を連れてきたのだ。

私は、私の家族と友人たちと一緒にサイモンたちを迎えた。 
彼ははじめ対面した時、恥ずかしそうにしていたが、徐々に会話にも慣れていった。私たちは彼の両親が来なかった理由をあえて尋ねなかった。
それは彼の心から読み取ることができたからだ。
彼の両親は地球に残り、彼らの人生を終えることを決断したようだった。

私はサイモンたちを海へ連れて行った。
ユリウス星の海に魚がいるわけではなかったが、
水面には太陽が反射し、琥珀色に輝いていた。 
海は底が見えるほど透き通っていて、心地よい風がどこからと吹いてきた。
浜辺に立ちながら、私たちはしばらく遠くを眺めた。

サイモンは私に尋ねた。
「ここは本当にユリウス星なのでしょうか。私はこの星がどこか地球に似ているので、未だに実感を持てずにいます。」 
 すると、彼の彼女と、彼女の両親も同じようにどこか宙に浮いたような気持ちだと話してくれた。

私は応えた。
「私も最初この星に来た時はそうでした。そして、これまで地球から訪れた多くの地球人もきっと同じ気持ちだったはずです。
 私はユリウス星の友人たちから、この宇宙には地球に似た星は数多あることを教わりました。
 だからきっと、ユリウス星もそうした惑星の一つなのでしょう。」

私はサイモンに質問した。
「あなたはここに来たことをどう感じていますか?」

彼は応えた。
「私はこの星についてまだよく知りません。だから、この星について、
子供のような住人たちについて、もっと知りたいと思っています。今はここに来れたこと、そしてあなたに会えたことをとても嬉しく思っています。」
彼は続けた。 
「私は今も地球が大好きです。地球に住む家族や友人たちのことを愛しています。 ただ、今はユリウス星が想像以上に素晴らしい惑星だと分かり、そのことに私自身が感動しています。そして、この感動を家族や友人にも伝えたい気持ちです。」

それを聞いて私も嬉しかった。
その後、私たち4人は市場へ食事に出かけた。
市場には大きな食堂があり、私たちは机に置いてあるマイクに向かって食べたい料理のイメージを伝えた。

暫くすると、私たちが伝えた料理が宙を浮遊する皿に乗って運ばれてきた。

私は蕎麦をイメージしたので、 私には蕎麦が運ばれて来た。 
青年サイモンは大きなピザを頼み、他の3人もスパゲティや寿司を食べていた。皆とても楽しそうに食事をし、彼女の両親はこんな体験は今までしたことがないと子供のようにはしゃいでいた。
その両親の姿を見て、サイモンと彼女も嬉しそうだった。

食事が終わり、私は彼らと抱擁を交わし「またね」と言って別れた。
私が家に着くと妻と息子が テレビを見ていた。 どうやらタリオン星という星についてのニュースを見ているようだった。
私も彼らと一緒にそのニュースを眺めた。タリオン星の人たちは、赤い服を着た人たちが多かった。彼らは他の惑星の住人たちとのコミュニケーションの取り方について議論を交わしていた。
タリオン星の人たちはとても合理的なようで、どのようなコミュニケーション手段が最も合理的か話し合っていた。
それを見ているうちに、私はまた地球のことを思い出した。 すると、TV画面に地球の様子が映った。
映像には会社で働く人やスーパーで働く人たちの様子が写しだされた。

それを見て私は地球人はまだ働いているのか、と驚いてしまった。
ユリウス星に来て以来、すっかり働かなくなった私は働くという行為や概念も忘れてしまっていたのだ。

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ユリウス星からUFOに乗り他の星へ行くこともできた。
もちろん、地球に行くこともできた。
けれど、私は行ったことのない新たな惑星を見ることに関心があった。
私たち家族はユリウス星からUFO に乗ってたくさんの星を訪れた。その星の風景や人々を目にし、エネルギーを感じることができた。
それは私たちにとって貴重な体験となった。

ユリウス星での生活が3年ほど経った頃、 私は家族に地球へ里帰りしてみないかと提案してみた。ほんの10日間。
私の提案に妻も同意してくれた。 私たちはちょっとした旅行気分で地球へ戻る準備をはじめた。
ユリウス星を離れる前に、私たち家族はユリウス星の友人たちから地球に着いたらあなた達のエネルギーを
地球のバージョンに戻すように教えられた。そのやり方についても彼らから教えてもらった。
彼らは、私たちが地球に戻るからといって心配するようなことはない、安心して良いとも言ってれた。
私たち家族は友人たちに見送られ、小型のUFOに乗りユリウス星を後にした。

地球へ到着するまでの時間はわずか数秒ほどだった。
 私たちは無事に地球に到着した。 
私が指定した場所は、私がそれまで長く住んだ日本の横浜だった。
真夜中のコンビニ裏にある、薄暗い駐車場にUFOを不時着させた。
私はUFOを小さくしてカプセルにしまい、ユリウス星の友人たちから言われた通りエネルギーのバージョンを地球モードに変更した。

するとどうだろう、これまで体感しなかった感情を感じるようになった。 
それまでの感情とは違う新たな感情が内側から湧いてくるのがわかった。 
なんだかいろいろな感情と思考が、一気に押し寄せてきたような気分だった。なんだかとても懐かしい体験だった。

私は妻と息子に今の状態について尋ねてみた。
7歳になる息子はとても変な感じだと言い、妻はおかしな感じがすると言って笑った。私たち家族は、久しぶりの地球モードを楽しむことにした。

私たちはそのまま数年ぶりにコンビニに入り、サンドイッチやジュース、おにぎりなど購入した。久々にお金を使ったのが新鮮だった。 
その夜、私たちは駅前にあるビジネスホテルに一泊した。

私たちが降り立った日本は大きく変わっていた。大勢の人が都会から地方へ移住したようで、企業や行政の各省庁も地方へ分散したようだ。
東京は閑散とした状態になり、その代わりに地方都市がいくつも発展していた。
これは世界の産業構造が変わったことが原因のようだ。
日本から海外へ移住する人たちも増え、海外からの外国人もこれまでの10倍近く日本に移住してきているようだった。
最も大きく変化したことは、地球人たちの働き方だった。

日本人の労働時間は世界トップクラスに長時間労働だったはずなのに、
今や彼らは平均2時間だけ自宅から職場のサーバーにログインして自宅で仕事をするようになっていた。工場の生産作業も全てオートメーション化され、全てロボットが行っていた。
スーパーやコンビニも無人化が進み、 飲食店もほとんどがバイキング形式に変わり、来店客はセルフで食事を取り分けていた。
しかも、営業時間はランチの11時から15時のみ。 
地球人は以前よりも働かなくなりつつあった。
働く時間が減ったことで彼らは家族や友人と過ごしたり自分の関心のあることだけに時間を使うことができるようになった。
この地球全体の経済構造がシフトしたのは、やはりパンデミックがきっかけだったのかもしれないと私は思った。

私はこの地球の変化に驚くと同時に、なぜか少し安心した。
私たち家族はそれぞれの実家で過ごしたり、親しい友人たちと久々に会い、ひとときの地球バカンスを楽しんだ。ただ、私たちは友人たちにユリウス星について話すことはなかった。 あっという間に10日間が過ぎ、私たち家族は再びユリウス星に帰る時がきた。

ユリウス星に戻る前に、私たち家族は定食屋へ立ち寄った。
その定食屋は、老夫婦2人と中年女性の3人が切盛りしている年期が入った小さな定食屋だった。 私は数年ぶりに豚の生姜焼き定食を注文した。
妻は酢豚を頼み、息子はハンバーグ定食を頼んだ。 
しばらくして、山盛りのご飯と定食が運ばれてきた。 
この店のホールを仕切る中年女性は、見た目は仏頂面をしているが、
お客の注文をとる時と、料理を運んで来る時だけハキハキとした話し方で声も大きかった。湯気のあがる出来立ての定食を見つめながら、私は地球を離れるのが少し恋しくなっている自分に気付いた。 
私たちは食事を終え、会計を済ませると店の3人に礼を言い店を出た。

夜10時過ぎ。
私たち家族は、人気のない丘の上にある公園へ向かった。
その公園から街の夜景を眺めながら、次はいつ来れるのだろうかと3人で話しながらUFOに乗った。
UFOから見下ろした日本列島を取り囲む街の灯りがとても綺麗だった。

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私は地球人なのだろうか、それともユリウス星人なのだろうか。
どちらでも良かった。 
もし、いつかユリウス星を離れる時が来たら、私はどこの星へ行くのだろう。また地球へ戻ることもあるのだろうか。
宇宙は広い、きっとまた見たことのない素晴らしい星に出会う時がくるだろう。その日が訪れるのを楽しみにしながら、 ユリウス星での暮らしをもう少し満喫しよう。

私たちは地球から300光年離れた星に住む地球人だ。


つづく

2020年4月24日
斎藤晴彦